鉄くじら一丁目

TRPGリプレイ置き場

シノビガミリプレイ『楽園』 第1話

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何処とも知れぬ暗い部屋に四人の忍者が集っていた。
たった一本の蝋燭は彼らの口元のみを浮かび上がらせ、光源と呼ぶには余りにも頼りない。しかし、常に表舞台の陰で暗躍してきた忍者にとってはこの程度で充分、いや、むしろ明るすぎるくらいだろう。

「月読と名乗る忍者に秘伝書が奪われた」

静寂を破るのは部屋の奥から響く声。力強さの中、若干の憂いを帯びている。

「秘伝書があった蔵の番人は再起不能。駆け付けた数十人の護衛も倒された。いずれも手練れだったにも関わらず、だ」

四人は黙って言葉の続きを待った。
命令に多くの情報は必要ない。ただ、獲物の名前が分かればそれでいい。

「月読を倒し、秘伝書を奪還せよ。秘伝の術を決して完成させてはならん!」

そうして忍務は下された。ある者は一礼し、ある者は笑みを浮かべながら音もなく去って往く。どこからともなく吹いた風に蝋燭の火も散らされ、まるで最初から誰もいなかったかのように静けさだけが残った。

GM:いつかどこかで、このような出来事がありました。
ビーナス:ニンジャ感がすごい……。
花丸:知らない知らない! エンジョイするだけだもん!

 

 

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メインフェイズ

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導入

9月30日。
明日に学園祭を控えた清陵学園は、今日ばかりは授業も免除され一日準備に打ち込めるとあって、朝から活気づいていた。
せわしなく廊下を行き交う生徒たちと、それを微笑ましく見守る教師たち。
そんな彼らへ挨拶の声をかけながら、一人の少年が急ぎ足で自分の部室に向かっていた。

「こんな大事な日に寝坊するなんて…! みんな待ってるだろうなぁ」

逸る気持ちそのままに勢いよくドアを開け、水波カオルは肩で息をしながら大切な友人たちに笑顔を向けた。

「おはよう! ごめん遅れちゃって!」


GM:みなさんが揃っている部室に、カオルが入ってきたところから始まります。

獅子丸:あー! カオルちゃん先輩、こんちゃーす!

椅子代わりのバランスボールの上でヨガをしている獅子丸が声を上げる。
ぶんぶんと振る手につられて右に左にボールが揺れるにも関わらず、決して姿勢を崩さない。

カオル:おはよう獅子丸くん、今日も元気だね。

扉を開けた瞬間のバランスボールは異様な光景だが、しかし彼らの間では当たり前のことなので、運動部顔負けのバランス感覚も「元気」で済んでしまう。

獅子丸:はい、俺元気っす! 他のみなさんもう来てるっすよ!

隣では花丸がポールダンスをしていた。このポールは部費で設置したものだ。ポールとボールで部室の一角が完全に占領されている。

カオル:花丸くんもおはよう。なんで二人とも朝からそんなに元気なんだい?
花丸:だってトゥモローは待ちに待った学祭じゃないですか~。これはもう居ても立ってもいられないっていうか~、なぁ、しっし!
獅子丸:ハイっす! 学祭ってことは祭りっすよね! 祭りなら俺に任せてくださいっす!

ボドゲ部とは
獅子丸:バランスボールで逆立ちします。
GM:どんどん難易度が上がっていくぞ。
花琳:サーカス団員かな?
獅子丸:そのうち縄跳びもやりだすから。


花丸:みーちゃんパイセン聞きました? 俺ら客500人集めないと姫ビーパイセンから尻8つに割られるんすよ~。
ビーナス:遅刻した子は12分割よ! もー、遅いじゃないカオルちゃん

ボールで上下に跳ねる獅子丸とポールに足を絡ませて左右に揺れる花丸。頭上からビーナスの声加わる。ボドゲ部は視線の移動が忙しい。

花丸スマホの料金プランみたいだ。
獅子丸:パネェ。
ビーナス:次遅刻したらスクワット100回だからね!
カオル:流石に明日は本番だから遅れないよ、ビーナスちゃん。
ビーナス:私たちレディは待ちくたびれちゃったわよ。ね、花琳ちゃん深幸ちゃん?
獅子丸:れでぃ?

妙に強調された単語に、獅子丸は首をかしげる

花琳:私の方は準備大体終わってますし~、後はのーんびり本を読めれば幸せでおっけーです~。水波先輩、おはようございます~。
カオル:花琳ちゃんおはよう。今日は何を読んでるのかな?

システムが違います
花丸無名祭祀書
GM:やめてSAN値が減っちゃう。

 

獅子丸京極夏彦
花琳:京極本は重いんでお家に置いてるんです~。今日持ってきてるのは芥川龍之介の短編集で~、今読んでるのは杜子春っていうんですよぉ。

推し文豪
花琳:今日持ってきてるのは芥川龍之介の短編集で~、
花丸:ん゛っ!
花琳:今読んでるのは杜子春っていうんですよぉ。
花丸:ん゛ん゛っ!
GM:(RPで中の人が刺されている)

 

花琳:こっちに積んでるのが中原中也の詩集と~、これは江戸川乱歩怪人二十面相ですね~。何か読みたくなったら言ってくださいね~。すーぐ貸してあげますから~。
カオル杜子春は授業でやったよ。現国でわからないことがあったら、花琳ちゃんに聞けば確実だね。
花琳:ぜひお声かけくださーい。私で良ければいくらでもお付き合いしますよ~。

現国と聞いて、花丸がはっとした顔をする。

花丸:ガツピーガツピー!
深幸:その呼び方、慣れないんですけど……。
花丸:ガツピーさー、現国の宿題やった? 俺全然やってなかった! マジやばやばのやばじゃーん。学祭終わったらすぐ授業とか超ウケるんですけど! だからさ、ちょっちゅでいいから見して!

3回転半して軽々とポールから飛び降りる。

深幸:じゃあ代わりにポールダンスをyoutubeにあげてもいい?
花丸:マ? 俺すごいユーチュバーになれっかな!?
深幸:そこまではわからないけど、それなりに再生数稼げると思うんだよね。
花丸:なるりょ~。おけぴおけぴー。

これで首の皮一枚繋がった、と安心するのはまだ早い。

ビーナス:私が個人授業してあげてもいいのよ? 放課後の教室でね☆
ビーナスが風圧を感じるウインクを飛ばしてきたのだ。
深幸:その方が常々くんの力になるかもしれませんね、檻姫先輩。
ビーナス:あたぼうよ! いつでも頼りなさいよ!
花丸:……マ?

納得顔で頷く深幸と、逞しい二の腕を鳴らすビーナスに、花丸の冗談めかした口調もガチトーンとなる。

獅子丸:男らしいっす!
ビーナス:あらやだ乙女よ♪

言ってはいけない一言だったのか、バランスボールは容赦なく蹴っ飛ばされてしまった。もちろんそれに乗った獅子丸ごと。

花丸:そ、それよりも、みーちゃんパイセンなんで遅刻したんすか?
カオル:え? えーっと、ちょっと夜更かししちゃってさ
獅子丸:珍しいこともあるっすねー。

けろっとした口調で、床に転がった体勢からバク転をして起き上がる。

深幸:目覚ましかけわすれたんですか?
カオル:ちゃんとかけてたんだけど、3回じゃ足りなかったみたいだね。
深幸:次は5回鳴らすようにしませんとね。
カオル:それよりモーニングコールしてほしいな。そしたら起きるからさ。
深幸:嫌ですよ面倒くさい。
カオル:え、辛辣……。
ビーナス:私はいいわよ!
カオル:ビーナスちゃんからだとコール音鳴る前に起きるよ。て言うか逆に寝れなさそう。
ビーナス:ふふふ、寝かさないわよ~。

ひとしきりカオルの脇腹をくすぐったあと、はいはいと言って手を叩く。

ビーナス:みんな作業は進んでる?
花丸:看板、あともう少しでできるっす~。
獅子丸:飲み物お菓子も準備したっす! ついでにバナナも買ってきました!
カオル:バナナはおやつに?
深幸:入りません。
獅子丸:えぇ?!

カオルから目配せされた深幸のきっぱりした回答に獅子丸は肩を落とす。

花丸:チラシ担当誰でしたっけ~?
花琳:水波先輩が素材集めで、私が文章担当です。もう発注分届いていますよ~。
ビーナス:目標1000枚!
カオル:捌けるかなぁ?
花琳:空からばらまいた方が早いんじゃ……?
花丸:よゆーっしょ!
ビーナス:深幸ちゃんはどう?
深幸:学校への報告や許可取りは大体終わりました。あとは、明日回す簡単なシナリオのHOと、キャラクターシートを印刷するだけですね。
ビーナス:できる女は違うわね! 私の入り口の飾り付けだって出来てきたのよ。

示した先にはLEDの電飾と毒々しい紫のバラがある。

ビーナス:照明もピンクにしようと思ったんだけどね。
獅子丸:なんか別の店に見えるんで、やめたほうがいいと思いまっす!
ビーナス:みんな順調だし、明日には間に合いそうね。よし、円陣組もう!
獅子丸:祭りっぽくていいすね!
花丸:りょりょ~。

早速ビーナスの元に集まる獅子丸と花丸。
いつの間にか銀河鉄道の夜を抱きしめて寝ていた花琳を起こして、深幸は差し出されたカオルの手を取る。

ビーナス:じゃあ……、明日の学祭頑張るぞ! えいえいおー!
全員:おー!

心をひとつに
ビーナス:円陣のとき、お決まりの掛け声とかあるといいよね。
GMファンブルなんて怖くない!
花琳:逆凪なんて怖くない!
ビーナス:いいわね、心がひとつになったわ!

 

 

第1サイクル-①

  • シーンプレイヤー:花丸
  • シーン表:校庭

花丸:姫ビーパイセンと感情結びます。

花丸はビーナスと獅子丸を伴い、学際でボドゲ部が主催するTRPGコンベンションのチラシ配りに赴いた。
校庭に出ると、陸上系の部活が何やら準備をしている。外部へアピールする門を作るのだろう。
意気揚々と、夜のバイトで培った、女の子全てを落とす《詐術》の笑顔を浮かべてチラシ配りを始める。

花丸:2d6の期待値は7……。2d6の期待値は7……。

《詐術》:失敗

花丸:あ゛ーもうやだー!

スタプリ星座占い
GM:ファンブらなかっただけマシじゃない?www 開幕早々期待できるな天秤座~。
花丸:今日2位なのに! 獅子座以外には勝てるのに!

1位 獅子座 ワクワクするような一週間
2位 天秤座 あらめずに頑張れる運勢
3位 水瓶座 謎がとけてスッキリ気分

ニチアサ勢が多い卓。セッションは日曜日の夜に行われた。

 

神通丸→《詐術》:成功
花丸はビーナスに【忠誠】を取得
ビーナスは花丸に【憧憬】を取得

花丸の笑顔はビーナスの乙女心をときめかせたようだ。キュンとかトゥンクとかの擬音が聞こえる。

花丸:姫ビーパイセン、俺当日も頑張ります!
ビーナス:飛ぶ鳥を落とすように女の子を落としてきなさい!
花丸:りょ~!

情報共有してもらわないと死んでしまう
花丸:……人物欄の名前のインパクト強すぎだろ。
_人人人人人人_
> ビーナス <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^

 

 

第1サイクル-②

  • シーンプレイヤー:ビーナス
  • シーン表:渡り廊下

ビーナス:カオルくんを調査したいです。

ビーナスは、花琳と一緒に補充のチラシを運ぶカオルとすれ違う。

カオル:花琳ちゃん、重いぶん持つよ。
花琳:わ~、ありがとうございます~。
ビーナス:あら、二人とも。
カオル:これから補充に行くところだよ。
ビーナス:明日のモーニングコールは任せてね。逃がさないわよぉ。

プレッシャーを伴った言葉の《縄術》で、カオルを精神的に縛り上げる。

《縄術》:成功
カオルの【秘密】がビーナスに渡る。
感情共有:花丸

ビーナス:あ、今回はいいんですけど「沈黙」あります。ご承知おきください。
花丸:えっ、花丸の感情、えっ、はい、これだから比良坂は……。

沈黙
判定に成功すると情報の感情共有を阻止できる。
ビーナスは口の堅い乙女なのだ。

 

見えない精神の縄を伝って秘密を知ったビーナスはカオルの肩を、ずんっ、と叩いて去って行った。

花琳:明日は遅刻できませんね、水波先輩。

 

 

第1サイクル-③

  • シーンプレイヤー:花琳
  • シーン:屋上

花琳:水波先輩調べるので、屋上に来てください。

カオル:学祭楽しみだね。あれ? 花琳ちゃん?
隣を歩いていたはずの花琳は忽然と姿を消していた。

花琳:今ここで手を放してしまえば、明日配る分が減る……! 宣伝にもなる……! そんな素晴らしいことがあっていいの? 大体、こんなにたくさん、大変じゃないですか。人混み得意じゃないですし、私はどちらかというと、会場でお客様を迎えながら帰る時間まで待機したいです。それならチラシなんかいっそここで!!

良く晴れた空の下、顔に影を落とした花琳はぶつぶつと呟く。屋上の柵の前で風になびく髪とストールと、チラシ。

カオル:ストーーーーーップ!
花琳:水波先輩! どうしてここが!?
カオル:あちこち探し回ったんだよ! まさかその手に持っているのは……。
花琳:だって、飛んでいった先で拾った人が来てくれるかもしれないじゃないですか! お尻割られちゃうのは嫌です~!
カオル:気持ちはわかるけど、許可を取ってないんだよこれは!
花琳:そんなことしている間にお尻が6つに割れます!
カオル:落ち着いてよく考えてごらん? こんなことをしたら、あっという間に生徒会や風紀委員に目をつけられて、謹慎処分になって、明日のコンベンション中止になっちゃうよ! 12分割どころの話じゃないよ!
花琳:あ、あぁ……姫ちゃん先輩に、殺される……! お尻が破裂しちゃう!

独裁者ビーナス
ビーナス:恐怖政治かな?

花琳:先輩、私頑張りますから! どうか、今やろうとしていたことは姫ちゃん先輩には黙っていてください!
カオル:もちろんだよ、同じ部活の仲間じゃないか。

崩れ落ちた花琳は深呼吸をして落ち着くと、カオルと一緒に口の前で人差し指を立てた。

花琳:へくしゅっ!
カオル:冷えてしまったみたいだね、早く戻ろう。
花琳:はーい。

緩やかに秋へと移り変わる風は少し冷たい。後輩を心配して校内へ促すカオルだが、しかし一連のやり取りは全て花琳の策略だった。
《罠術》が張り巡らされた屋上に足を踏み入れた時点で、知らぬ間に心の内を暴かれることになる。

《罠術》:失敗
神通丸→《罠術》:成功
カオルの【秘密】がビーナスに渡る。

 

 

第1サイクル-④

  • シーンプレイヤー:獅子丸
  • シーン:食堂

獅子丸:カオルくんの秘密を知りたいので特攻します!

昼食時、獅子丸と花丸がそれぞれキツネうどんとカツ丼で腹ごしらえをしていると、明太子定食のトレーを持ったカオルを見かけた。

コレステロール爆弾
GM:ご飯の上に明太子が乗ってて、味噌汁と卵焼き。マヨネーズも添えてある、魚卵と鶏卵の禁断の組み合わせです。

獅子丸カオルちゃん先輩、こっち空いてるっすよー!
席をばしばし叩くとカオルはすぐに気付いた。
カオル:ありがとう。じゃあ、お邪魔させてもらおうかな。
獅子丸:なんかロックなメニュー持ってるっすね!
花丸:もぐごごごごご!
カオル:喋るか食べるかどっちかにしなよ?
花丸:むいっ!

口いっぱいにカツ丼をほおばる花丸と対照的に、獅子丸は意外と行儀よくうどんを啜っている。ただし、ひと瓶丸ごと突っ込まれた七味唐辛子で器の中が地獄だ。

獅子丸:ビーナス先輩あたり怒りそうっすよね。

そう言いつつおかずを交換したり、雑談したする中で、持ち前の人当たりの良さを発揮した《対人術》で秘密を聞き出す。

《対人術》:成功
カオルの【真実】が獅子丸に渡る。

獅子丸:あー、あー、はい。わかりました。うどんうめーなー……。

遅刻の理由
GM:何でみんなこっちくるの!? 秘密誰かからもらえばいいじゃん!
花丸:だって遅刻してきたから。

カオルの遅刻は深夜アニメをリアルタイム視聴したことによる寝坊が原因、と軽いノリだったGM。予想外に焦る。

 

 

第1サイクル-⑤

  • シーンプレイヤー:深幸
  • シーン:校庭

深幸:檻姫先輩調べに行きます。

一通りの準備が終わった深幸は、報告のためビーナスを探していた。
せいりょー! ファイ、オー! ファイ、オー! ファイ、オー!
遠くから掛け声が響いてくる。ビーナスは、と見回せばチアリーディング部の髪の毛を結ってあげている光景が目に入る。

チア部:ビーナスちゃん、いつもありがとねー!
ビーナス:いいってことよ! 任せておきなさい!
チア部:学祭超気合い入れて踊るから、絶対見に来てねー! じゃーねー!
ビーナス:行く行くー♪ 練習頑張んなさいよ!
深幸:檻姫先輩、今大丈夫ですか?
ビーナス:あら、深幸ちゃんじゃない。何かあった?
深幸:作業の報告をしようと思って。使えそうなボードゲームは所定の場所に準備して、キャラクターシートやHOはファイリングしています。コマもいくつかバリエーションを作ったので、好きなものを選んでもらえるかな、と。あの……本当にお尻割るんですか?
ビーナス:私の中学時代の通り名知らないの? “ケツカッチンのビーナス”よ。割った尻は数知れないわ……。
深幸:……。

いつになくシリアスな雰囲気に、部員のお尻が不安になる。
そんな憂いを振り払いつつ、“ケツカッチンのビーナス”をキーワードに《分身の術》で一度に複数人への聞き込みを行う。

《分身の術》:成功
ビーナスの【秘密】が深幸に渡る。

深幸:はーーーーーーーーーーん……。そっかぁ……そっっっっかぁ……。
花丸:典型的な絶句!? 何が起きてるの超怖いんだけど!?
ビーナス:恋心は守られたぞ。

深幸:あ、明日は頑張りますね。
ビーナス:顔色が悪かったけど大丈夫かしら? チーク塗りたくってあげなきゃ!

そそくさと立ち去る深幸の背中を見送りながら、ビーナスはひとり気合を入れた。

 

 

第1サイクル-マスターシーン

放課後。
作業を終えた生徒らが三々五々帰っていく。最終下校時刻を前に、ボドゲ部も明日の本番に挑むだけとなった。

ビーナス:寄り道しちゃダメよ。解散!
花琳:あのっ、水波先輩。この後ご予定とかありますか?
カオル:ん、特に無いけど?
花琳:良かったら一緒に、二人で帰りません?
カオル:花琳ちゃん、一緒の方向だったっけ。
花琳:あの、そういう……はい! そうなんですよ! あれれ、知らなかったんですか?
カオル:だって花琳ちゃん、いつも最初に帰っちゃうじゃないか。まぁ、別に構わないよ。
花琳:今日は特別なんです!

部室を出るカオルを追いかける花琳だが、ふと思い直して半開きの扉に顔を突っ込み、他の部員に念押しする。

花琳:みなさん、いいですね? 今日は私にとって一世一代の日です。絶対に邪魔しないでください!
獅子丸:フリっすか?
花琳:違います!
花丸:花琳ちゃみたいな可愛い女の子の言うことなんだから、聞くしかないよね!
ビーナス:困ったことがあったらいつでも相談に乗るわよ!

訳知り顔で見送る面々の中で、深幸だけは複雑な心境だった。

 

人気の無い道で、ふと花琳が足を止める。

花琳:満月ってもうすぐでしたっけ?
カオル:この時期だと……もう少し先かな。
花琳:ふぅん、まだなんだ……。ねぇ水波先輩「I love you」をどう日本語訳しますか?

唐突な質問に戸惑うカオルだが、月と「I love you」の組み合わせで、すぐに思い当たる逸話があった。

カオル:それは花琳ちゃんが好きな文学での話かい?

夏目漱石は「月が綺麗ですね」と訳したという。

花琳:いいえ、先輩だったらどんな風に考えるのかなと思っただけですよ~。
カオル:そうだな……。

空を見上げて、しばし考える。好きな人と過ごす時間は何事にも代えがたい。例え一言二言、言葉を交わすだけでも、それは間違いなく二人きりの瞬間だ。であれば、約束を結びたい。毎日変わることのない、緩くふわりとした約束を。

カオル:「明日またここで会えたらいいね。」かな。
花琳:明日またここで……そっかぁ。

噛み締めるように繰り返した花琳は、おもむろに眼鏡を外し、遮るものが何もない眼差しでカオルを見詰めた。

花琳:私があなたへの「I love you」を訳すとですね……。

今にも触れ合いそうな距離。耳元に口を寄せ、囁く。

花琳:「私のために死んでください。」

 

花琳:カオルに戦闘を仕掛けます。

一部阿鼻叫喚
花丸:はぁ!?
深幸:ほわぁぁぁぁ……!
GM:誰も感情を持ってないので、乱入できません。
花丸:嘘でしょお!?(泣)
花琳:みんな来るんじゃないかってドキドキしてた(笑)
深幸:あああ、かっ、かんっ……(感情と言いたいらしい)

 

戦闘

最大2ラウンド。
演出を優先しGM権限で全ての速度にプロット可、判定は自動成功とする。

1ラウンド目

プロット

7:花琳
6:
5:
4:
3:
2:
1:
0:カオル

GM:カオルは一般人なので、プロットは0です。ここには全てのプロットの攻撃が届きます。1点でもダメージを受ければ死亡します。

 

カオル:え? それってどういう……。

花琳からは、カオルが静止して見えた。
驚いた顔のまま動かないカオルの頬を苦無で切り裂く。そのまま速度を上げて、上げて、音速も光速も超えた超光速へ。花琳が踏み込んだ、そこは死地。生半可な覚悟では手を伸ばすことすら叶わない忍の極致。

 

獅子丸:深幸ちゃーん、元気ないっすよー。 アイス食う?
深幸:あ……、ありがとう。

 

ビーナス:どうしたの花丸ちゃん、寂しそうな顔してるわよ?
花丸:しっしとガツピーが先に帰っちゃったんですよ~。
ビーナス:わかったわ、私がその心の隙間を埋めてあげる!
花丸:ヤバヤバのヤバじゃん……。

 

花琳の接近戦攻撃《生存術》:自動成功

花琳:貴方から全てを奪う私のこと、恨んでも構いません。貴方の「I love you」も叶うことはないでしょう。

夕陽に追い遣られ地上に届かない月の光のように、痛みも言葉もカオルには未だ届かない。きっと彼には自分のことなど見えていないのだろう。そう思うと、うっすら笑みが浮かんだ。
心臓めがけた目にも止まらぬ一撃を飲み込んだカオルの胸は、ひたすらに無防備だった。

花琳:許してもらえなくてもいいんです。他のみなさんから罵倒されようと、そんなのもうどうでもいいんです。

この時になって初めて、カオルの目は花琳を捉えた。急に倒れ込んできたように見えた彼女を受け止めようとするが、なぜか体が動かない。

花琳:おやすみなさい……そして、さようなら。

花琳が背を向けた瞬間、カオルの傷口から鮮血が吹き出す。

カオル:君は……。

それ以上は言葉を紡ぐことができなかった。何か言いかけた口のまま、瞳から徐々に光が失われ、自らが作った血の海にばしゃり倒れ伏す。

 

花丸:……あれ? 今、なんか……。
ビーナス:花丸ちゃんも嫌な予感がした? 女の勘ね。
花丸:いや、女の勘はよくわかんないっす。……んー、とにかく明日は学祭楽しみましょう!!
ビーナス:そう……ね。 お疲れ様。

 

獅子丸:あ! あー……、買ったばっかなのに……。
深幸:どうして急に落っこちちゃったんだろう。私の、口つけてないから食べる?
獅子丸:いいっすよ、それは深幸ちゃんのっす。明日は学祭だってのについてないっすねー。
深幸:悪いことが先に起きたんだから、次は良いことが起きるよきっと。
獅子丸:……そうっすね。あ、学祭終わったらみんな誘ってここのアイスで打ち上げしましょっか! その後は焼肉に行って、花丸くん肉好きだし俺も肉大好きっす!
深幸:それいいね。食べ放題のお店で、ぱーっとするの。
獅子丸:楽しみっすねー! それじゃ、俺こっちなんで!
深幸:うん、また明日。……。いつもの道なのに、どうしてこんなに遠く感じるんだろう……?

 

夕陽が沈み、あたりは闇に閉ざされた。

 

第一サイクル 了

 

乱入されたら風饗、かばうされたら風饗
花琳:あーーーーー殺りきったーーーーー……!
GM:ありがとうございます! 良い! 超良い!
花琳:秘密も抜かれなかったし、乱入も無かった! みんな大好き!
一同:おうふ。

GMと花琳のPLは事前にめちゃくちゃ打ち合わせをしていた。
彼女の忍術はカオル絶対殺すマン構成となっている。

 

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